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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)2950号 判決

原告 毛塚金作

右訴訟代理人弁護士 本間勢三郎

被告 赤坂米穀株式会社

右代表者代表取締役 成瀬米次郎

右訴訟代理人弁護士 満園勝美

同 満園武尚

被告 田中三千雄

右訴訟代理人弁護士 野村千足

主文

一  原告と被告赤坂米穀株式会社との間において、原告が東京都港区赤坂八丁目三九二番宅地五五・二七平方メートルのうち別紙図面(一)記載の(ハ)、(ニ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分につき囲繞地通行権を有することを確認する。

二  原告の主位的請求のうち被告赤坂米穀株式会社に対するその余の請求及び被告田中三千雄に対する請求並びに被告らに対する予備的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告赤坂米穀株式会社との間においては、各自に生じた費用は各自の負担とし、原告と被告田中三千雄との間においては、全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 原告と被告田中三千雄との間において、原告が東京都港区赤坂八丁目三九一番宅地一六二・一四平方メートルのうち別紙図面(一)記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(チ)、(リ)、(ヌ)、(イ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分につき囲繞地通行権を有することを確認する。

(二) 原告と被告赤坂米穀株式会社との間において、原告が東京都港区赤坂八丁目三九二番宅地五五・二七平方メートルのうち別紙図面(一)記載の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分につき囲繞地通行権を有することを確認する。

2  予備的請求

(一) 原告と被告田中三千雄との間において、原告が東京都港区赤坂八丁目三九一番宅地一六二・一四平方メートル及び同所三九〇番宅地一六二・一四平方メートルのうち別紙図面(二)記載のA、D、M、G、N、H、I、J、K、L、E、B、Aの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分一三・七四平方メートルにつき同所三九三番宅地一〇・八四平方メートル及び同所三九四番宅地二三・三七平方メートルを要役地とする通行地役権を有することを確認する。

(二) 原告と被告赤坂米穀株式会社との間において、原告が東京都港区赤坂八丁目三九二番宅地五五・二七平方メートルのうち別紙図面(二)記載のB、E、F、C、B、の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分七・四一平方メートルにつき同所三九三番宅地一〇・八四平方メートル及び同所三九四番宅地二三・三七平方メートルを要役地とする通行地役権を有することを確認する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(主位的請求原因)

1 原告は、東京都港区赤坂八丁目三九三番宅地一〇・八四平方メートル(以下、本件で問題となる土地はすべて地番及び地積を除いて同一なので、地番及び地積あるいは地番のみで表示する。)及び三九四番宅地二三・三七平方メートル(以下、右両土地を一括して「本件土地」という。)を所有し、右土地上に木造瓦葺二階建居宅を所有して、これに居住している。

本件土地を原告が所有するに至った経緯は次のとおりである。

すなわち、原告の亡父毛塚金松は、昭和二一年ころ、本件土地をその所有者竹内専之助より買い受け、次いで、原告は、昭和三八年四月一二日、右金松の死亡により、相続によって右土地の所有権を承継取得した。

2 本件土地は、別紙図面(一)記載のとおり、北側公道に面している(リ)、(ト)の各点で幅員一・二四メートル、右公道に面した(チ)の点より八・二八メートルの奥行のある(ロ)、(ニ)の各点で幅員一・七四メートルの通路(以下「本件既存通路」という。)によって北側公道に通じているのみで、その他には公路に通じる通路のない袋地である。すなわち、

(一) 本件土地の北側約八・二八メートル先には東西に走る公路があるが、本件土地と右公路の間には、本件土地の北側に隣接する被告赤坂米穀株式会社(以下「被告会社」という。)所有の三九二番の土地(五五・二七平方メートル)と被告田中三千雄(以下「被告田中」という。)所有の三九一番の土地(一六二・一四平方メートル)があって、本件土地の北側には本件既存通路以外には右公路に通じる通路がない。

(二) 本件土地の西方には南北に走る公路があるが、本件土地と右公路との間には、本件土地の西側に隣接する被告田中所有の三九一番の土地及びその他第三者の所有地があって、本件土地の西側には右公路に通じる通路がない。

(三) 本件土地の東方には西北に走る公路があるが、本件土地と右公路との間には、本件土地の東側に隣接する訴外鈴木某所有の三九五番の土地及びその他第三者の所有地があって、本件土地の東側には右公路に通じる通路がない。

(四) 本件土地の南側には隣接する訴外渡辺某所有の三九九番の土地があって、公路に通じる通路はない。

3 原告は、被告田中所有の三九一番の土地のうち別紙図面(一)記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(チ)、(リ)、(ヌ)、(イ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分及び被告会社所有の三九二番の土地のうち同図面記載の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分につき、袋地である本件土地のために囲繞地通行権を有する。

その理由は次のとおりである。

(一) 本件土地より公路に通じるには、本件土地の囲繞地である三九一番の土地と三九二番の土地を通って別紙図面(一)記載の北側公道に出るのが一番至近であり、前記2記載の他の囲繞地を通るのに比して囲繞地所有者に与える損害が最も少い。

(二) 前記のとおり三九一番の土地と三九二番の土地には本件既存通路があり、原告は、現在右通路を通って北側公道に出ている。

(三) 本件既存通路は、大正一四年一〇月一五日以前から、道路管理をしていた表町警察署長より幅員九尺(約二・七メートル)の通路として建築線の指定がされ、以来、右幅員を保って原告及び周辺住民の利用に供されてきた。

ところが、被告会社は、昭和三二年ころ、三九二番の土地に木造瓦葺二階建店舗兼居宅を、原告が現に通行してきた別紙図面(一)記載の(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(ニ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分に及んで建築し、前記通路の幅員を一方的に狭めた。さらに、被告田中も、昭和三九年一月二〇日、三九一番の土地に木造陸屋根及び亜鉛メッキ鋼板葺三階建店舗兼居宅を、原告が現に通行してきた別紙図面(一)記載の(イ)、(ロ)、(リ)、(ヌ)、(イ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分に及んで建築し、前記通路の幅員を一方的に狭めた。そのため、本件既存通路は、現況の幅員になってしまった。

(四) 原告は、昭和四五年九月、本件土地上の旧建物を取りこわして居宅を新築したところ、同年一一月六日、東京都港区建設部建築課より、右建物敷地が建築基準法上要求される道路に二メートル以上接していないとの理由で、新築居宅を除却するようにとの是正勧告を受けた。右の二メートル以上の接道義務を尽すうえでも、囲繞地通行権の幅員は二メートル必要である。

4 しかるに、被告らは、原告が三九一番の土地及び三九二番の土地のうち前記3の冒頭部分に記載した各部分につき囲繞地通行権を有することを争うので、原告は、その確認を求める。

(予備的請求原因)

5 被告田中所有の三九一番の土地及び三九〇番の土地(一六二・一四平方メートル)のうち別紙図面(二)記載のA、D、M、G、N、H、I、J、K、L、E、B、Aの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分一三・七四平方メートル及び被告会社所有の三九二番の土地のうち同図面記載のB、E、F、C、Bの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分七・四一平方メートルについて、大正一四年一〇月一五日、道路管理者表町警察署長が建築線の指定をしたとき、三九〇番ないし三九二番の土地の周囲の土地所有者が右各土地部分に通路を開設した。

6 原告の先代毛塚金松は、昭和二一年ころ、本件土地の所有権を取得して以来、前記各土地部分を通路として継続的に使用し、昭和三八年四月一二日、右金松の死亡により原告が相続によって右使用継続状態を承継し、昭和四一年一二月三一日当時も右各土地部分を通路として使用していた。

原告は、これにより右各土地部分について本件土地を要役地とする通行地役権を時効取得したので、右時効を援用する。

7 しかるに、被告らは、原告が前記各土地部分につき通行地役権を有することを争うので、原告は、その確認を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  被告田中

(一) 請求原因1について

認める。

(二) 同2について

(1) 冒頭の事実、すなわち、本件土地が袋地であることは否認する。

(2) (一)のうち、本件土地の北側(実は東北側)約八・二八メートル先に東西(実は南北)に走る公路(原告のいう北側公道)があること、本件土地と右公路との間には、本件土地の北側(実は東北側)に隣接する被告会社所有の三九二番の土地があり、本件土地の西側(実は西北側)に隣接して被告田中所有の三九一番の土地があることは認める。

(3) (二)の事実は争う。

(4) (三)のうち、本件土地の東方(実は東南方)に西北(実は東北から西南)に走る公路があることは認めるが、その余の事実は否認する。

(5) (四)のうち、本件土地の南側(実は西南側)に隣接する訴外渡辺某所有の三九九番の土地があることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同3について

(1) 冒頭の事実は否認する。

(2) (一)の事実は否認する。

(3) (二)の事実は認める。

(4) (三)のうち、本件既存通路部分が大正一四年一〇月一五日に建築線の指定された公路であったこと、被告田中が昭和三九年一月二〇日三九一番の土地に原告主張のとおり建物を建築したことは認めるが、被告会社による三九二番の土地への原告主張の建物建築の事実は不知、その余の事実は否認する。

本件既存通路部分の建築線の指定による公路は、昭和九年五月七日警視総監によって廃止され、これに代えて、後記(6)記載のとおり本件土地と訴外渡辺某所有の三九九番の土地の境界線より約七メートル西南側先に幅員三メートルの公路が設けられたものである。

(5) (四)の主張は争う。

(6) 反論

仮に本件土地が袋地であるとしても、本件土地と渡辺某所有の三九九番の土地の境界線より西南約七メートル先には西北より東南に走る幅員三メートルの公路(昭和九年五月七日警視総監が建築線の指定をしたもの)があり、本件土地より右公路に出るには、本件土地のうちの三九一番の土地に隣接する側にある幅員二尺(約〇・六メートル)の空地部分(事実上の通路)を通って、さらにその延長線上にある三九九番の土地のうちの三九一番の土地に隣接する側にある幅員二尺(約〇・六メートル)の空地部分(事実上の通路)を通るのが囲繞地所有者に与える損害が最も少い。したがって、右公路に出るためには、訴外渡辺某に対して三九九番の土地のうちの右部分について囲繞地通行権を主張すべきである。

また、本件土地より別紙図面(一)記載の北側公道に出るには同図面記載の三九二番の土地のうちの(ニ)、(ト)、(チ)、(ハ)、(ニ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた空地部分(事実上の通路)を通るのが囲繞地所有者に与える損害が最も少い。したがって、右公路に出るためには、被告会社に対して三九二番の土地のうちの右部分について囲繞地通行権を主張すべきである。

(四) 同4について

争う。

(五) 同5について

三九〇番ないし三九二番の土地のうち原告主張の各土地部分について大正一四年一〇月一五日建築線の指定がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六) 同6について

原告の先代毛塚金松が昭和二一年ころ本件土地の所有権を取得し、その後原告主張のとおり死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

通行地役権の時効取得のためには、要役地所有者が承役地たるべき他人の土地のうえに通路を開設することが必要であるところ、三九〇番の土地及び三九一番の土地のうち原告が通行地役権を主張する通路部分は、原告が通路として開設したものではなく、被告田中がこれを開設したものであるから、原告が通行地役権を時効取得する余地はない。

(七) 同7について

争う。

2  被告会社

(一) 請求原因1について

認める。

(二) 同2について

本件土地が袋地であることは否認する。

(三) 同3について

原告が三九二番の土地のうち原告主張の土地部分について囲繞地通行権を有することは否認する。

なお、(三)のうち被告会社が昭和三二年ころ三九二番の土地に原告主張のとおり建物を建築したことは認める。

(四) 同4について

争う。

(五) 同5について

否認する。

(六) 同6について

原告の先代毛塚金松が昭和二一年ころ本件土地の所有権を取得し、その後原告主張のとおり死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(七) 同7について

争う。

三  被告らの抗弁

1  被告田中

仮に、本件土地が袋地であるとしても、原告の先代毛塚金松は、昭和二一年ころ本件土地をその所有者竹内専之助より買い受けた際、三九二番の土地もその所有者であった右竹内より買い受けた。その後、右金松は、昭和三一年一二月一五日被告会社に対し三九二番の土地を売り渡した。本件土地はこれにより袋地になったものであるから右金松の相続人である原告は、民法二一三条二項により被告会社所有の三九二番の土地に対してのみ囲繞地通行権を主張できるものである。

2  被告会社

(一) 被告会社は、昭和三一年一二月一五日三九二番の土地をその所有者であった原告の先代毛塚金松から買い受けたが、その際、右金松は、被告会社に対し、三九二番の土地については囲繞地通行権たると通行地役権たるとを問わず、一切の通行権原を放棄する旨の意思表示をした。

(二) 仮に、前項の事実が認められないとしても、前記金松及び原告は、被告会社が昭和三二年ころ三九二番の土地に建物を建築して以来、本訴提起に至るまでの一六年もの間三九二番の土地についてなんらの通行権原も主張せず、これを放置したので、原告の三九二番の土地についての一切の通行権原は消滅した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

原告の先代毛塚金松が昭和二一年ころ本件土地を買い受けた際、三九二番の土地も所有者の竹内専之助より買い受け、右土地を昭和三一年一二月一五日被告会社に売り渡したことは認めるが、三九二番の土地以外の囲繞地に対して囲繞地通行権を主張できないとの主張は争う。

2  同2について

(一) (一)のうち被告会社が昭和三一年一二月一五日三九二番の土地を所有者の毛塚金松から買い受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) (二)の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一主位的請求について

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  次に、本件土地が原告主張のように袋地であるかどうかについて検討する。

1  《証拠省略》によれば、

(一) 本件土地の東北にはこれに隣接して被告会社所有の三九二番の土地が、西北にはこれに隣接して被告田中所有の三九一番の土地が、西南にはこれに隣接して訴外渡辺某所有の三九九番の土地が、東南にはこれに隣接して訴外鈴木某所有の三九五番の土地が、それぞれあり、本件土地は直接公路に接していないこと。

(二) 本件土地の東北約八・二八メートル先には西北より東南に走る公路(別紙図面(一)記載の北側公道)があるところ、三九二番の土地のうち同図面記載の(ニ)、(ト)、(チ)、(ハ)、(ニ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分及び三九一番の土地のうち同図面記載の(ロ)、(リ)、(チ)、(ハ)、(ロ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分が空地部分(これが本件既存通路である。)で、これを本件土地より右公路に通じる通路として原告が日常生活において事実上利用しているが、他には本件土地より直接右公路に通じる通路はないこと。

(三) 本件既存通路は、別紙図面(一)記載の北側公道に面している(リ)、(ト)の各点で幅員一・二四メートル、本件土地に面した(ロ)、(ニ)の各点で幅員一・七四メートルであること。

(四) 本件土地と三九九番の土地の境界線より西南約七メートル先には西北より東南に走る幅員約三メートルの公路があり、本件土地と右公路との間には、三九九番の土地と三九一番の土地の境界線に沿って本件既存通路とほぼ同一幅員の空地部分(本件既存通路の延長線上にあり、その状況は別紙図面(二)記載のとおりである。)があり、これも原告及び付近住民が事実上の通路として利用しており、右事実上の通路を利用しても本件土地より公路に出ることができるが、他には、本件土地より公路に通じる通路は、たとえ事実上のものであっても存しないこと。

以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実に基づき本件土地の袋地性について考えるに、(一)で認定したとおり本件土地は直接公路に接しておらず、本件土地より公路に通じる通路としては、(二)、(三)で認定した本件既存通路と(四)で認定した事実上の通路があるのみである。しかるところ、本件既存通路については、原告においてまさに囲繞地通行権を主張しているものであるから、右通路があることを理由に本件土地の袋地性を否定することは背理である。また、(四)で認定した事実上の通路についても、原告が予備的請求においてその一部につき通行地役権を主張しているほかは、原告が被告田中あるいは訴外渡辺某に対して右通路について、囲繞地通行権を有するかどうかはさて措き、これを除くその他の正当なる通行権原を有することは証拠上認められないから、右通路が存することを理由に本件土地の袋地性を否定することも相当でなく、結局、本件土地は袋地であると認定するのが相当である。

三  そこで、原告が被告田中所有の三九一番の土地及び被告会社所有の三九二番の土地のうち請求原因3の冒頭部分に記載した各土地部分につき囲繞地通行権を有するかどうかについて検討する。

1  まず、被告田中所有の三九一番の土地についてみるに、被告田中の抗弁(抗弁1)のうち、原告の先代毛塚金松が昭和二一年ころ本件土地をその所有者竹内専之助より買い受けた際、三九二番の土地もその所有者であった右竹内より買い受けたこと、その後、右金松は、昭和三一年一二月一五日被告会社に対し三九二番の土地を売り渡したことは原告と被告田中との間において争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、三九二番の土地と別紙図面(一)記載の北側公道との接続状態は、右金松が三九二番の土地の所有権を取得して以来今日まで変更がなく、右金松が被告会社に三九二番の土地を売り渡すまでの間は、本件土地と三九二番の土地は同一所有者(右金松)に属する一団の土地として北側公道に接していたことが認められる。

してみれば、本件土地は、右金松において三九二番の土地を被告会社に売り渡したことによって袋地になったものというべきであるから、前認定のとおり右金松より相続によって本件土地の所有権を承継取得した原告は、民法二一三条二項により、被告会社所有の三九二番の土地に対してのみ囲繞地通行権を主張すべきものであり、被告田中所有の三九一番の土地に対する囲繞地通行権の主張は許されないものというべきである。

したがって、原告の被告田中に対する囲繞地通行権確認請求は理由がない。

2(一)  次に、被告会社所有の三九二番の土地についてみるに、被告会社が昭和三一年一二月一五日原告の先代毛塚金松から三九二番の土地を買い受けたことは、原告と被告会社との間においても争いがなく、右事実に《証拠省略》を総合すれば、原告と被告会社との間においても、右金松が三九二番の土地を被告会社に売り渡したことによって本件土地が袋地になったものであることが認められるから、前認定のとおり右金松より相続によって本件土地の所有権を承継取得した原告は、民法一一三条二項により、三九二番の土地に対して、通行に必要な限度において囲繞地通行権を有するものといわなければならない。

(二) これに対し、被告会社は、抗弁2(一)において、被告会社が三九二番の土地を右金松から買い受けた際右金松が右土地について囲繞地通行権を放棄する旨の意思表示をした旨主張するが、右事実については、これを認めるに足りる証拠はない。また、被告会社の抗弁2(二)の主張は、通行権原消滅について時効消滅とも異る独自の見解を前提とするものであり、主張自体失当である。

(三) そこで進んで、三九二番の土地について、原告の囲繞地通行権の及ぶ範囲、具体的には、原告主張のように右土地のうち別紙図面(一)記載の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分全体に囲繞地通行権が及ぶかどうかについて検討するに、被告会社が三九二番の土地を買い受けた後、昭和三二年ころ右土地に木造瓦葺二階建店舗兼居宅を同図面記載の(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(ニ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分に及んで建築したことは原告と被告会社との間において争いがなく、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の先代毛塚金松及び原告は、被告会社が右のとおり同図面記載の(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(ニ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分に及んで建築したことについて、当時はもとより、本訴提起に至るまでの一〇余年もの間、被告会社に対し異議を述べたことはなく、その間、右金松及び原告は、三九二番の土地については本件既存通路のうちの同図面記載の(ハ)、(ニ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分を通行して本件土地より同図面記載の北側公道に出ていたこと、右金松は、三九二番の土地を被告会社に売り渡した際も、被告会社との間において、本件土地より右北側公道に通じる通路を三九二番の土地に確保するための具体的話合をしておらず、三九二番の土地に通行権原を確保するためのなんらの措置もとっていないこと、現在も、同図面記載の(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(ニ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分には被告会社所有の前記建物が建っていること、以上の各事実が認められる。

右認定事実によれば、三九二番の土地のうち原告の囲繞地通行権の対象となる範囲は、民法二一一条一項所定の基準に照らして、別紙図面(一)記載の(ハ)、(ニ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分に限られると認定するのが相当である。

したがって、原告の被告会社に対する囲繞地通行権確認請求は、三九二番の土地のうち右に認定した部分についてその確認を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

第二予備的請求について

原告は、被告田中所有の三九一番の土地及び三九〇番の土地のうち別紙図面(二)記載のA、D、M、G、N、H、I、J、K、L、E、B、Aの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分及び被告会社所有の三九二番の土地のうち同図面記載のB、E、F、C、Bの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分について、通行地役権の時効取得を主張するので検討するに(なお、原告の被告会社に対する主位的請求は一部認容されているが、それはあくまでも一部認容であり、かつ、一部認容された囲繞地通行権の対象となる土地の範囲よりも原告が予備的請求において主張している通行地役権の対象となる土地の範囲の方が若干広いので、被告会社に対する関係においても予備的請求について判断する。)、民法二八三条によれば、地役権は継続かつ表現のものに限り時効により取得することができるものであるところ、これを通行地役権についてみれば、同条にいう「継続」の要件をみたすには、承役地たるべき土地の上に通路の開設があっただけでは足りず、その開設が要役地の所有者によってなされたことを要すると解するのが相当である(最高裁昭和三三年二月一四日第二小法廷判決、民集一二巻二号二六八頁参照)。

これを本件についてみるに、原告は、通行地役権の時効取得を主張する前記各土地部分について、大正一四年当時における周囲の土地所有者による右各土地部分の通路の開設と原告の先代毛塚金松及び原告による昭和二一年以降の右通路の継続的使用を主張するのみで、要役地たる本件土地の所有者である右金松あるいは原告による承役地上の右通路開設の事実の主張立証はないから、原告の予備的請求はすべて理由がないといわなければならない。

第三結論

以上によれば、原告の主位的請求は、被告会社に対する関係において前記第一、三、2、(三)で判示した限度で理由があるから認容し、被告会社に対するその余の請求及び被告田中に対する請求は理由がないから棄却し、予備的請求は、すべて理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横山匡輝)

〈以下省略〉

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